ある理由が発端となり、夫婦関係にヒビが入っていた。小さな理由の積み重ねもあったが、私はそれに気付くことがなかった。
娘との関係も疎遠になってしまい、どうにでもなれと自暴自棄な精神状態でもあった。
どんどん、乱雑になっていく部屋の様子。
確実に暗雲が立ち込めている状況の中、打開策を考えていた。
忍び込むように迫っていた暗雲2~占いは当たる?~
散歩中に考えた大きな賭け
家族の関係に大きな闇が覆っていた時期、愛犬との休日の散歩中に色々と状況を改善させる方法を考えるようになっていました。
「もう小手先の方法では通用しない。大きな外科手術が必要なのか。」
そんなことを考えながら週末の散歩コースを歩く休日が増えていました。
いつも体が重く、昨日飲んだお酒の影響を感じながらその日のお酒に合う夕食の内容を考えていたような休日。
「もう力ずくでも、娘を叱るしかない。」
そんなことを考えるようになっていました。
妻はいい大人ですから、言ってももう無駄だろう。
娘なら、一度叱ればどこかで変わってくれるかもしれない。
でも叱ることによって、ますます私と娘との関係が遠くなってしまうかもしれない。
そんなことも考えましたが、当時の私には他の選択肢は思い浮かばなかったのです。
私が考えたこと。
それは、理にかなっているとは言えないことかもしれません。
娘と一緒に掃除をしようと考えたのです。
『娘と話そう。一緒に部屋の掃除をしようと話そう。そして、それでも言うことを聞かない時は引っ叩くしかない。』
そんなことを考えていました。
何も会話も無くなってしまった娘と一緒に掃除をする。
乱雑な雰囲気になってしまっている部屋を一緒に綺麗にしていけば、気分も変わってくれるのではと考えたのです。
ピカピカになっていく部屋を一緒に確認していけば、気持ちも救われてくるかも。
でももし娘が断った時、自分は彼女を体罰しないといけなくなる・・・
やはり大きな賭けでした。
敗れてしまった賭けの後
重い気持ちのままやってきた、数週間後の休日。
いつもは入ることの無い娘の部屋へ、突然入っていきました。
「今から、汚れた寝室を一緒に掃除しよう。今日、パパは覚悟をして言っている。もし、断れば今からお前を引っ叩く。外に出られなくなるくらい引っ叩く。」
片手に雑巾を持ち、久し振りの会話がこんな始まりでした。
「いや。向こうへ行って。」
「言っておくけど、脅しなんかじゃないぞ。本当に引っ叩く。一緒に掃除をするだけでいいから。」
「絶対にいや。もう向こうへ行って。」
最悪の状況だけは避けたい。
でもここまで言ってしまった以上、ここで引いてしまうとこれからもずっと
『こんなものか』
と思われる。
「口だけで、結局は何もしないんだ。世の中ってチョロいよね。」
そんな風に考えてしまうようになる。
「30分だけでいい。一緒に掃除を手伝えば、それでいい。でなければ、ぶん殴る。」
ズドーンと思い鉛が胸に入って来る感覚がありました。
気持ちが本当に重く、辛かった瞬間でした。
どうしてもポジティブになれず、いつもの自分ではありませんでした。
最悪の瞬間
「やめろ~!向こうへ行け!」
抵抗する娘。
初めて、娘を引っ叩きました。
もう二度と会えなくなるかもしれないと、頭をよぎりながら娘の顔を引っ叩きました。
それがあの時の私にとっては、最後の手段でした。
最初こそ、抵抗を示していた娘でしたが所詮は女の子・・・
「お前のことをとても大事に思っているのに!」
心の中で思いながら、口に出すことなく頬を叩きました。
2度、3度・・・。
私の少年時代の顔がそこにありました。
お餅のように、プクッと小さく膨れたスベスベの頬。
皺ひとつない、スベスベの頬。
丸くて柔らかい頬を叩きました。
こうして文字にしている今も、正直辛い感情がこみ上げてきます。
後悔もあり、それしか手段が見えなかったこともあり、もう何もわかりませんでした。
こんなに愛している娘なのに・・・
つきたてのお餅のようなほっぺに自分の頬をつけていた赤ちゃんのころ
自分の子どものころと同じ顔がそこにある
ぷくっと膨れた皺ひとつない、艶やかな頬
出張からお土産を持って帰った日、喜んで飛びついてきた幼い頃の娘
暖かい春の季節
一人、庭に咲いていた花を摘み、花びらを1枚1枚取っていた幼い娘
そんな小さくて寂しそうな背中を見ながら、
「何してるの?」
と聞いた時
ニコッ、と微笑みを見せてくれ、
小さな両手を広げて父に抱き着いてきた私の娘
そんな光景がよみがえってきます。
もうこれで、娘は妻の実家に出ていってしまうだろう。
もう二度と会えなくなるかもしれない。
「もうこうして、お前と話すことも最後かもしれん。せいぜい、頑張っていい人生をおくれよ。」
そんなことを言い放ち、敗北感を抱えながら寝室の掃除を始めました。
涙を見せなかった娘
引っ叩いても、娘は涙を出すことはありませんでした。
その日は、ミュージカルの練習があった日。
後で妻から聞いたことですが、娘の声から涙を必死にこらえている様子が電話口から伝わっていたそうです。
ただでさえ離れてしまっていた父と娘の距離が、更に遠くなってしまいました。
妻の車で迎えに来た車に乗って、ミュージカルの練習に行ってしまった娘。
ゴミ屋敷のような部屋をただ掃除しながら、窓を拭き、ごみを捨て、床を拭く。
体をひたすらに動かしながら、クタクタになるまで掃除をし続けました。
何も考えないようにするのは、体を動かすしかなかったのです。
「もうママとこの家を出ていって、お爺ちゃんとお婆ちゃんのところで住みたい。」
そのような事を妻に話していたことを後になって聞きました。
一人になったその晩に
その晩、妻と娘は戻ってきませんでした。
愛犬と酒に酔った自分だけ。
日曜日の八時頃。
いつも家族で観ていたTV番組が流れています。
一人でいることをいいことに溢れてくる涙を隠すこともせず、ただ茫然と夜を過ごしました。
何を信じればいい?
何もわからず、涙がこぼれるままに愛犬と過ごしました。
明日も仕事。
辛すぎる・・・。
まだまだ、断酒のことなどこれっぽっちも考えていなかった寒い季節。
2018年の11月下旬頃だったと思います。
それは、これから始まる長い長いどん底生活の始まりに過ぎなかったのです。
□汚れてしまった部屋の掃除を娘と一緒にしようと考えた
□しかし、娘との会話も無く距離も離れていた
□力ずくでもと思い、状況は最悪の結果に
□一人になった夜、お酒を飲んで更に沈んだ気持ちに
□妻との関係も不自然なままだった